サイべ沢遺跡

(「日本の古代遺跡 北海道」野村 祟)

  道南西部において縄文尖底土器群のあとを受けて、まず円筒下層式の初期の段階の土器群が渡島半島の南部に出現し、その後次第に北上して、円筒下層式の後半には噴火湾沿岸に至る。

 円筒上層式の時期には、ほぼ石狩低地帯全域が分布圏になる。

円筒土器の石狩低地帯への進出は、この地域が単に東北地方の文化圏に組み込まれたということだけではなく、この後に続いて出現する道央部の余市式土器、道東部の北筒式土器の成立に大きな影響を与えることになる。

   サイベ沢遺跡の円筒土器

 函館市の中心部から国道5号線を北上して約6.5キロ、桔梗小学校を過ぎて左手に入ると、低平な段丘が西に開けるあたり、函館市西桔梗町にある。

 段丘を切り開いて西流するサイベ沢の両側に、東西600m、南北400mにわたって広大な集落遺跡が広がる。

 函館市立博物館がさいべ沢南岸段丘の東側と西側の二点の貝塚を伴う遺物包含層を発掘した。地表面から4.5mの深さまで遺物を含む層が確認され、全部で25層に分けられる。

 このうち、円筒土器を含む遺物層が7層あって、深い方から数えて、第一から第四文化層が円筒下層式、第五から第七文化層までが円筒上層式と順序だって出土し、北海道においても円筒土器の下層式から上層式に至る変遷が明らかにされた。

 土器の他に石皿、石冠などの石器類、土偶、土製品が出土している。貝塚はアサリ、ハマグリを主とし、カガミガイ、ツメタガイなども含まれている。シカ、イルカ、マグロ、カジキなどの動物遺体、それに仰臥屈葬の人骨が出土している。

 サイベ沢の北側B地点からは、円筒下層d式期を中心とする五角形の掘り込みをもつ楕円形プランの住居跡三軒が検出されている。

 遺物の分析状態から、沢の南北に二つの住居跡群の存在が推定されている。

   

函館市のサイベ沢遺跡は、縄文前期初頭から中期末までの約2000年以上におよぶとみられる大規模集落跡です。遺跡の広さは約15ヘクタールと、北海道内でも最大級の大きさで、円筒下層式や上層式土器が大量に含まれる厚さ4mの文化層も発見されるなど、青森市の 三内丸山 遺跡にも匹敵する大規模遺跡と考えられます。

円筒下層a〜d式土器、円筒上層a〜e式土器など、円筒土器文化の全般にわたる土器があり、南北海道の標準ともなっています。またこれらの主な遺物は、北海道の有形文化財に指定されています